この本の内容が面白いと思ったのは、「一貫して受ける商品を作るには」、つまりビジネスで成功するための方法として美意識を鍛えることが重要だと説明していることにあります。
よって、曖昧な美意識といったものを題材にしているのにも関わらず、それを分かりやすく論理的に説明しているところも評価が高いです。
そしてマンガ形式ということもあり、1時間程度でサクッと読めてしまいます。
サイエンス限界論
ビジネスにおいて、サイエンスに頼ることが危険な理由は主に3つあります。
・時間は有限であること
・みんながみんな同じ答えにたどり着くこと
・言い訳がきく
ビジネスにおいては、限られた時間の中で企画を決定し、実行していく必要があります。情報(エビデンス)集めにかかる時間やそもそものエビデンス作りのための時間を費やす時間も限られているわけです。
また、いざ膨大な時間を情報集めにかけたとしても、同じようなことをやっている競合と何ら差別化を測れないサービスや商品が生み出されてしまうわけです。
また、エビデンスありきの産物は、それがコケたとしても、「あれー。おかしいな。エビデンスは完璧だったのにな。」と言い訳ができるわけです。これがかなり厄介で、計画段階で、エビデンスありきだと人を説得できますし、最終的にコケたとしてもエビデンスありきという意味で言い訳ができるので、たいした反省もできないリスクがあります。
経験限界論
ビジネスマンがその分野においての経験を培っていけばいくほど、目の前の物事を見るというよりも、過去の出来事の蓄積で物事を判断するようになっていくわけです。
過去の蓄積によって物事を判断することは、効率的な判断能力の向上となり、一見メリットだらけのようにも思えますが、実体としては目の前にあるものを純粋に見れなくなるということでもあります。
純粋に物事を見れなくなるということは、つまり消費者側の立場に立つことができなくなるということを意味します。
いかに経験的にこれが売れる!という確信があったとしても、固定観念に捉われた産物であることには間違いないので、そこに消費者との感覚の齟齬が生じ、冷静な結果に対する分析や、そもそも消費者に受けないといった理解不能な状況に出くわすリスクを伴うわけです。
これからは美意識を鍛える時代
サイエンス重視、経験重視にならず、今目の前のものを純粋に見るための美意識を鍛えることが現代のビジネスにおいて必須であると著書では主張しています。
その美意識を鍛えるための方法として、visual thinking strategyを絵画・哲学・文学・詩に触れることを推奨しています。
また、ビジネスにおいては、トップの人間がアート志向になるか、計画段階をデザイナー等に権限を譲渡するなどの提案をしています。
詳しく知りたい方は本書を読んで見てください。
私の意見
私自身は、医療業界に進むということで、EBM(Evidenced Based Medicine)教育で医学を学んでいます。ここでいうサイエンス重視です。
私の考えですが、結局、サイエンスも経験も美意識も全て必要だと思うわけで、そういう意味では本書と全く同意見です。
医療業界でも結局は、経営判断が必要です。患者の病気に対して、どのようにアプローチするかといったところはサイエンス重視である必要はありますが、
いかに患者に病院に来てもらうか、問診のシステム、病院内のルール、人事制度など、様々なところは病院それぞれの判断で行われ、そこに明確なエビデンスは存在しないわけです。
今話したのは経営の立場の話ですが、医療従事者個々人のやり方にも美意識を求められるようなことはたくさんあると思います。
結局美意識のない経営や個々人の振る舞いは、今目の前のものを純粋に見れていないという点で、評価が低くなるリスクがあることをこの本書で感じることができました。