この本は、記憶の研究を30年している著者のコラムである。
1章 自分も、人生も、記憶がつくりあげる
2章 絶対に忘れたくない!どんな記憶が残るのか
3章 忘れたいのに、忘れられない。嫌な記憶はなくせるか
4章 あれは本当だったのか?偽りの記憶
5章 記憶を生かして、よりよく生きる
本章の合間にミニコラムが掲載されているのだが、それが特段面白かった。
意味のないものは記憶に残らない。つまり、わからんものは頭に残らん。
記憶を良くする秘訣は、絶対に記憶しようと思わないことだ。つまり記憶しようとすると多くの人たちは意味もわからないまま丸暗記しようとする。丸暗記しようとしたものはたとえ数日間は残っていても必ず消え去ってしまう。
記憶を良くするためには、覚えようとするのではなく、覚えようとするものが意味していることを理解することが大切なのである。
ごろ合わせと言うのは、端的に言えば、数字の羅列のような意味のないものに意味付けすることだ。
確かに、私が医学の勉強で覚えたゴロはいつまで経っても忘れそうにない。反対に、無理やり覚えた知識はいとも簡単に忘れていっているのを痛感する。
本を読むと、様々な知見が与えられ、自身の経験と結びつき、そのインプットは意味のあるものに昇華していく。
一方で、実務に必要な知識は、無理やり流し込むように覚えていく場合も多い。その際の、悪あがきと言えるものが「復習」だと私は思う。無理やり流し込んだ知識をもう一度反芻する、またはその知識の文脈や拠り所を時間をかけて咀嚼していく、そういう作業が求められるのではないかと思う。その際に、ゴロを利用するのはひとつの手だと思う。
この本には、単に記憶の良し悪しを語るだけではなく、記憶が培う自分自身のアイデンティティや、記憶喪失の意義やデメリット、トラウマに対する見解など、様々な視点で物語ってくれているので、記憶に対する見識を深めたければ必読かもしれない。